それぞれの目的や夢を持って、様々な人が移住しています。下田さんは、4年前に大空町へ。既存の農家で働きながら、農業のことを新たに学ぶ「新規就農」のために移住。現在、“親方” の三好さんの指導のもと、日々試行錯誤をしながら作物を育てています。お二人に、大空町で農家としての暮らしについて、お聞きしました。
大空町に移住のキッカケについて教えて下さい。
下田さん:本州ではトラクターメーカーで働いてました。サラリーマンをやりながら、農業に興味があったので調べていくと、継ぎ手のない農家に入る” 第三者継承” や、自分で一から始めるなど、色々なカタチがあるのがわかってきました。
そんな時、たまたま、大学時代に二十日間の住み込み実習でお世話になった三好さんからぴったりなタイミングで電話をもらって。実は、農業はやりたいと思っていると話したら、三好さんが、今ちょうど第三者継承についても考えていると話してくれました。
お金の問題や手続きもあるし、気持ちがあったものの、1年かけて悩んで、地元の札幌も離れることも含めて頭の中を整理して、決めました。
三好さん(親方):研修の後にも付き合いは続いていて、芋を送ったりはしてたんだよね。実家からの電話で、トラクターの会社の状況などは知っていたね。うちに来ないか、って誘ったら一回は断られたんだけど、その後連休のあとに連絡があって、次の1月から来てくれました。
移住する前は、どんなお仕事をされていたんですか?
下田さん:酪農学園大学で勉強した農業経済の知識を活かして、就職しました。
周りの同級生は、農家の息子さんが多かったですね。
物流、経済、土壌などについて学ぶ中、必修で農家に必ず行かないと卒業できなくて。
その研修先が、三好さんの農家だったんです。
卒業後に、トラクターのメーカーの営業でトラクターや後ろにつける機械を売る会社に札幌で就職して、愛知県の豊橋市で6年働いた後、地元の札幌に戻りました。
第三者継承とは、どんな仕組みですか?
下田さん:跡継ぎのいない農家さんが、誰かに引き継ぐ仕組みです。
私は、法人化して徐々に経営を引き継いでいくという形にしましたが、この形でやるのは北海道初、おそらく全国初かもしれません。前例がないので、手探りでやっています。
ですが、基本的には居抜きが多いですね。まるごと全部渡すから買ってというカタチが多いです。それだと、資金力が必要になります。ノウハウも無いし、毎年管理の方法も違いますし、憧れでできるものではないと思います。
第三者継承の仕組みを使えば、農家が減るのを止めることができます。
大空町内で後継者のいない農家も増えているので、新しいモデルケースとして成功させて、スタンダードになれたら、理想ですね。
三好さん:第三者継承の制度については新聞で知って、実際に農家も見学した。
必要なものを買うために、借金もして、父親から引き継いだものを自分の代で、15 倍にできた。そうやって受け継いだものを絶やしたくないと、60 歳前に思ったんだよね。
憧れだけで新規就農にくると、温かい時期はいいけれど、冬が来て大雪見た瞬間帰るなんてこともあるしね・・・。
だけど、農家の人は機械があるから除雪できちゃうんだよ(笑)。
本当はね、農業も、誰が来てもできるようにはしないといけないけどね。
どんなところがポイントになると思いますか?
下田さん:お金の話よりも、人間としてお互いに合うか合わないかが大事だと思います。
お互いどこまで引けるかは大事だと、担当の方からアドバイスされました。
三好さん:性格が違うっていうのが、いいのかもしれない。社長が面接すると、似たような人ばかり選んでしまう、っていうのも良く聞くよね。色んな人がいるほうが、うまくいったりする。
実の息子に教えている農家の親父同士が、お風呂で一緒になると、よく愚痴をこぼしてるよ。
大空町に移住してきてから、どんな感じですか?
下田さん:一極集中になってポイントポイントで忙しいので、生活にメリハリがついて良いですね。
雪が降ったら仕事は休みになります。春はバタバタと忙しくなり、植え終われば管理の時間。収穫時にはまた忙しくなり、という繰り返しです。
部外者の自分が大切にしているのは、町のみなさんとのお付き合いです。
大空町の方は、明るくて、閉鎖的ではないので、うまくいっていると思います。
札幌と比べても全然違っていて、地域のつながりが強い。
町内会のような集まりが、とてもたくさんあるイメージです。
三好さん:今4年目。ちょうど大変なんじゃない?
1年目はもっとできると思って接してたら、なにもできなかった(笑)。
2年目に、これは大変だと思って、仕事の順番から肥料の片付けなど、とことん指導したね。
手直ししてしまうと一生手直しすることになるので、失敗してから、アドバイスしている。
人脈も渡せるし、組合も跡を継いでもらえる。
人当たりもいいし、がんばって地域の中に入ってうまくやってくれているよ。
これからやっていきたいことや、夢はありますか?
下田さん:農業に関しては、まだまだ余裕がなくて、そこまで考えられていません。
ずっと住みたいこの町で、仲間を作りたい、というのが本音です。
もっと道東って注目されてもいいんじゃないかなと。
知床などは全国的に認知されていますが、せっかく女満別空港が近いので、農業関係なく仕事もリモートで良くなってきたので、こちらに住まいを置けますよね。
地元じゃない人が増えると、また違う盛り上がり方をするのではないでしょうか。
三好さん:今のことがきっちりできるようになったら、他のことしもていいよ、と話しています。
地盤が無いと、生活もできないし、設備投資にもお金がかかる。
お金から、天候から、段取りから全て自分でやるのが、親方。
この 10 年くらいは不作もなく、良いところしか見ていない人も多い。
「こんなはずないよな、いつかは来る」、そんな心の準備も必要。
自分は 60 歳だからわかるけど、30 歳じゃ、まだわからないよね。

編集部あとがき
まだまだ農業をがんばりたい!移住してきれくれる仲間が欲しい!と語る笑顔の下田さんと、父親との想い出や、引き継いだトラクターのことを嬉しそうに語る三好さん。農業を愛するお二人の素敵な師弟関係を目の当たりにして、ちょっとうらやましくなりました。第三者継承の新しいモデルケースとして、さらに進化しそうな予感いっぱいです。