大学への進学を機に、北海道に移住した愛媛県出身の横井さん。卒業後は、地域おこし協力隊として町役場に勤めながら「大地のMEGUMI」の副社長として奔走する “二足のわらじ” を履きこなすという新しい働き方にチャレンジしています。大空町への想いと、農業に起こしたい変化についてお話しいただきました。

大学への進学が、北海道へ移住したキッカケだったんですね。

愛媛県西条市という、秋には「だんじり」の祭りがある町から移住しました。この祭りは江戸時代から続いていて、今でも10月になると必ず地元に帰ります。学校もお休みになり、年末年始は帰らなくてもお祭りの時は帰省する人も多い地域です。

網走市にある東京農大で4年間勉強した後、地域おこし協力隊として2年間勤めることになり、そのタイミングで大空町へ引っ越しました。

今住んでいる大空町と網走市とでは全然違いました。農大の近くに住んでいたんですが、スナックや飲み屋もたくさんあったので、ごはんを食べる場所には困らなかったですね。大空町に移住してからは、コンビニばっかりになってしまった時期も…。今ではパートナーができたので、食生活も大きく変わりました。

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農大を選んだのには、どんな理由がありましたか?

実家の家業が農業なんです。今でも、おじいちゃんとおばあちゃんががんばって、春の七草を10万パックも出荷しています。私も、小学生の時から家業を手伝っていましたが、高校卒業後に、本格的に農業に関わる予定でした。

寒冷地と違って、愛媛県では365日畑が耕せるんです。朝5時から夜9時まで働いていた祖父母を見ていて、自分は生産よりも経営的な農業を勉強したいと思うようになりました。

といっても、移住した最初の2年は網走が好きじゃなかったんです。周りとの関わりもなくて。でも、そのうちこれではいけないと思い一人で飲み歩きを始めたら、周りの方が声をかけてくれるようになり、人から人へと紹介してもらううちにネットワークが拡がっていきました。

あくまでも自分の印象ですが、初めは冷たいけれどハマると熱い、というのがこの地域の方なのかなと。関わっていくうちに、どんどんこの地域が好きになっていって、恩返しの気持ちが大きくなっていきました。

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どんな形で、地域への恩返しにしたいと思いましたか?

大学で講義をした非常勤講師の方が実業家だったことを知り、自由に生きるライフスタイルを目の当たりにした時、起業して恩返ししたいと思うようになりました。

そのことについて大学の先生に相談してみたところ、大空町で地域の雇用を考える協議会
を立ち上げたと聞き、自分の想いを議題にかけました。農家の働き手が少ないというニーズがある中、働き手になりうる学生はいっぱいいる。この二つを繋ぐことができないか、と。

そして、大学4年生の時にアイディアを実現させ、農業アルバイトの紹介を始めました。この時点では、就活する気がなくて。もし起業できなかったら、愛媛に帰ろうと思っていたところ、大空町から農業アルバイトの紹介を地域おこし協力隊としてやってもらえないか、というオファーをいただいたんです。

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就職を機に、どんな心境の変化がありましたか?

大空町に移住して、配属された「まちづくり推進室」での主な業務は、移住のPRやサポートになりました。そんな中、やはり自分は農業をやりたいんだ…ということに改めて気づいたんです。

農業をやりたい、と思う中、地元企業の「大地のMEGUMI」で事務員として手伝いに入りました。なんと、3ヶ月くらいした時に、社長に、次の社長だからな、と言われてビックリしました。えっ…!と思ったけれど、はい、と即答していたんです。

大地のMEGUMIは、北海道の有機圃場の001号認定を受けた野菜の有機栽培の会社です。じゃがいもとカボチャ、アスパラなどを自社生産している他、契約をしている農家さんから仕入れて販売することもしています。その他には、地元の小学校6年生を対象に栽培から収穫販売まで体験できる食育の活動もしています。食育の圃場でも2ヘクタール使える会社は、なかなか無いと思います。

野菜の作り方の知識はまだまだなので、ゆっくり学んでいます。商品をいかに売るかについて、考えています。力を入れている加工品の販売も伸ばしたいです。

また、アウトドアと農業を掛け合わせることができないかなと思い、試行錯誤中です。農業を知ってもらうための入り口は、農業じゃなくてもいい。アウトドアやサウナから入った人が農業に関われれば、面白いんじゃないかと。まずは、大空町に来てもらえるキッカケづくりからですね。

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大空町に住んでみて、どんなところが魅力だと感じますか?

街中出身なので、街明かりが無い場所に住むのは初めてでした。実は…天の川は、7月7日にしか見れないんだと思っていたほどでした。

もちろん、街中に比べたら不便に思うこともあるんですが、それも楽しもうと思うようにしています。去年の秋にアウトドアに目覚めて、苫小牧から来たBBQインストラクターさんに、会社の敷地に焚き火台を作ってもらいました。BBQといえば、炭と網でやるものだと思いこんでいたんですが、鹿肉とかを丸ごとぶら下げて、肉を削ぎながら焼くのを見た時に憧れを抱きましたね。会社がある辺りであれば、周りも気にせず好きなだけ楽しめるんです。

サウナ小屋も作ったんですよ。グループで貸し切りサウナをするサービスを始めようと考えています。90分間サウナを楽しんでもらって、オプションで延長できたり。大地のMEGUMIの野菜で作ったポトフをふるまったり。どこでもサウナを楽しめるように、テント式サウナの導入も考えています。四季を通して、ひまわりや芝桜、青空と星空、自然を目一杯楽しめるようにしたいなと。

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大空町に伝えたいメッセージはありますか?

まちづくり推進室だけでがんばっていても、できることは限られてしまいます。もっと役場の部署間で連携して一体感があるといいなと思っています。さらに自由に言い合えるような環境になれたら、もっといいのではないかと感じています。

大空町の住居環境については、単身で住みたい、二人で住みたいとなると、賃貸物件が少ないんですね。たとえあったとしても、物件が老朽化していたり。そうなると、大空町に住まずに、近隣の美幌や網走で探そうってなってしまうので、そこがもったいないなあと。

買い物についても、町の人が使えるような商店街になるといいなと思っています。なによりも、大地のMEGUMIの野菜が食べられるお店を町内に増やしたいです。キッチンカーでの販売も行っており、当社人気商品の「フライドポテト」や「いももち」に並ぶ、みなさんに喜んでもらえるメニューを開発中です。

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編集部あとがき

新じゃが、と聞くと、春の収穫のお楽しみかと思いますよね。「実は、収穫したては、おいしくないんです。キタアカリは」と横井さん。寝かして寝かして、おいしくなる。熟成したあとの1-2月が一番おいしい、ということを初めて知りました!取材で伺った貯蔵庫には、たくさんのじゃがいもが眠っていました。おいしくなったキタアカリたちが、たくさんの人達を笑顔にする画が浮かびます。