芸能人などの著名人にも多くのファンを持ち、東京の専門店に足繁く通わせる魅力を持つ北海道ブランド牛『知床牛』を育てるカネダイ大橋牧場。
勉強と修行を経て大空町に戻った大橋 遼太 さんは、実家である牧場を継ぐ形で「究極に美味しい肉」を求め続け、挑戦を続けています。牧場と新たに開店した直営店を通じて、生まれ故郷で叶えたい夢とは。

大空町に戻ってこられた一番の理由はなんですか。

小学校低学年の頃から、実家が何をやっているは理解していて、家業を継ぐことは漠然と頭の中にありました。
酪農学園大学畜産学科を卒業し、茨城県の食肉専門学校精肉店で仕事の基礎を学び、京都府での 2 年間の修行期間を経て、25 歳で実家のカネダイ大橋牧場に入社することになり、大空町に戻ってきました。

大学のミートジャッジング大会の全国大会に参加していた時に、先代の会長、僕の祖父が倒れたから今すぐ帰ってこいと父から急に連絡があったのです。その時に祖父が亡くなり、家業を継ぐという意識を持つようになりました。その連絡がある数分前に、うちにこないかとお声をかけていただいたのが、修行をした『京都中勢以』(キョウトナカセイ)の社長でした。「精肉店という肉を売る立場から、生産者をより深く知ることができ、視野も広がる」と。これは祖父がつくってくれた縁なのではないかと思い、行くことに決めました。

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お祖父様が繋いだご縁から、今につながるわけですね。

中勢以の考え方や修行は、現在『知床牛』を育てている大橋牧場での仕事にかなり活きています。中勢以では、あるランクを越えると神戸牛になる純血但馬牛(タジマギュウ)しか基本的には買いません。しかし、『神戸牛』とはうたわず、生産者の方の名前ごとにお肉を売っています。与えている餌も水も環境も違いますから、育てる生産者によって肉の味が濃い、さっぱりしている、脂が美味いなど味が違うからなんです。『神戸牛』一つとっても、しっかり生産者がこだわった結果、それだけ味の差があるのだなということを知りました。

『知床牛』を育てているのは大橋牧場だけですので、中勢以での経験からよりこだわって味を重視し追求していこう、と。世界に一つの知床牛の為のこだわりの水や配合飼料を与えながら、一頭一頭性格や成長の違う牛たちに心を配り、育てています。

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まさに『メイドイン北海道』を掲げ、美味しさのためにこだわりを貫く。

大橋牧場では、牛が口にする草の粗飼料(ワラや牧草などの植物飼料)は輸入品を一切使わず、すべて北海道産のみを使用しています。安心安全ですよ、と言葉で言うのは簡単です。しかし蓋を開けてみると、中国などの海外から稲わらを買っていたりすることはよくあることなんですよ。

それはこだわりじゃないよね、消毒薬がたくさんかかったもの食べたくないよね、と。牛も同じ。現実的なところも見据えながら、こだわりを追求し続けています。さらにもっと美味しくなるためには、どうしたらいいのか。それを常に考え続け、牛の状態を見ながら春夏秋冬に合わせて牛の餌やりや世話をしていく。一つひとつのことをどう改善して行くかをこだわり抜いていることが、大橋牧場の強みです。

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大空町は、住みやすい町だと思いますか?

大空町は、牛にとっても我々人間にとっても良い環境です。とても空気がきれいですし、以前名水 100 選にも選ばれていた、ナトリウムがとても多く非常に上質な『銀嶺水 ( ギンレイスイ )』という水を牛に与えています。安心安全な、我々大空町東藻琴の住民が飲んでいるものと同様のものです。

僕にとっても、住みやすい町です。空港もすぐ近いですし、飛行機があることで交通の便がいいですよね。車はなくてはならないですけれども、買い物だったら 20~30 分でなんでもありますから。

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今年、大空町で一つ夢を叶えたとお聞きしました。

本当に欲しいお肉だけを購入できるような小さな精肉店を作って、自ら売って行くということを始めたいと思っていました。一生懸命育てたとしても、伝えるのは自分自身しかできないことがわかったんです。ブランド価値も下がってしまうし、他と差別化できない。このままじゃダメだと思い、一度はパートナーの裏切りという苦い経験もしましたが、専門学校時代の同級生と京都の精肉店で肉を教えてくれた上司だった方の2名と、精肉店『肉将』を始めたんです。

修行中に学んだことですが、精肉店でショーケースを見ると、結局目的よりも値段でなんとなく安いお肉を購入してしまったりしますよね。中勢以には、ショーケースがなかった。ご予算やどんなお肉が好きなのか、何名で食べるのかや、今日はハレの日なのかなどを直接ヒアリングして、「こういうお肉があります」とお客様にご提案できる店、それをオープンすることができました。

地元の人にも、外から訪れた人にも愛される、そんな店を目指しています。

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直接つながることで、こだわりをさらに発揮できますね。

実は、母が居酒屋をやっているのですが、毎月 29 日だけ『肉の日』という形で僕が腕をふるって焼肉屋になっているんですよ。その時に、「美味しかったよ」と言っていただけることが、生産者として一番のやりがいを感じます。生産者は、なかなかお客さまに食べていただくところまで見届けることはできないものです。お口に届くまで、すべて見届けられる。そこで「美味しい」という言葉を聞ける。生産から最後まで見届けることがやりがいであり、僕がこれまで経験したことも発揮できる一番の本当のこだわりでもあります。

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将来やっていきたいことはありますか?

元々は、大空町に戻ってきたいと思っていなかったんですけどもね。町を旅立ったら、家に戻らない人が多い中、東藻琴っていいなと思えるようにしていきたいです。若くてもなんでもできる、気持ちさえあればできるんだ。そう思える場所にしていきたい。観光で来た方には、オホーツクににふらっと来てすごいと思ってもらいたい。どんどん知ってもらいたいんです。
大事なのは、場所じゃないと思うんですよね。店を建てているときから SNS 発信もしています。

こんな田舎でこの商売をしていけるか不安もありますが、リピーターが増えてきてありがたいです。空港が近いので、観光してもらって肉将によってくれる人が増えればと。今では、ゴルフのあとに寄ってくれて、千葉から買いに来てくれたりするお客さんもいるんですよ。

店のロゴデザインには、我が家の家紋である「丸に五三の桐」を入れました。一代目で牧場を始めた祖父の想いを、これからも繋いでいきたいと思っています。

肉将

住所 〒099-3212 北海道網走郡大空町東藻琴 84-1
電話 0152-63-5529
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編集部あとがき

インタビューの最中も、お客様の足が絶えませんでした。どのお客様も大橋さんに声をかけ、しばらくお話をしている姿を見て、地元に愛される『顔が見える肉屋さん』の魅力を感じました。牧場見学では、育て方のこだわりや苦労話も…。こんなに丁寧に育てられたおいしいお肉を、もっと多くの方にぜひ食べてもらいたい!と思いました。