令和3年度に大空高校に民間出身の校長として就任した大辻さん。これまでの公立高校のあり方を変えようとしています。様々な地域で教育に携わり経験を積んだ大辻さんが考える、新しい学校とその魅力とは。町、そして全国から注目を集める校長先生に迫ります。
大空町へ移住されたのは、いつでしたか?
高知県からこの町に来て、1年になりますね。令和3年度に大空高校の校長に就任しましたが、準備期間中は、月イチで約一週間ずつ来ていました。それまでは隠岐の離島と高知県の嶺北地域という山あいの町に住んでおり、多少の不便には慣れていたものですから、大空町ではむしろ住みやすく感じました。一度、道東の冬を体験して、あまり「寒い」と感じなかったので、住む自信があがりました。
生まれは兵庫県宝塚市で、社会人になってからは、予備校で数学を教えていました。
その後、東京で中学受験の塾の講師を務めたあと、ベネッセに入社して、教育ICT活用事業開発、島根県の隠岐、高知の嶺北地域では公立高校の改革に携わりました。業務委託としてコーディネータという立場で、外から学校改革に携わり、地域と学校の間に立って、想いを擦り合わせる役割でした。
大空町と関わるようになったキッカケを教えて下さい。
令和2年度の大空高校づくり準備委員会の振興監として携わったのが、はじまりです。当時の山下町長から教育委員会に対して「校長を選ぶときは、思い切った人事をするように」とお達しがあり、その結果、民間から募集することが決まっていたそうです。前例がないわけではなく、10年以上前になりますが、北海道では過去にも民間から4名ほど就任されたことがあります。
公募が出た後、初代校長としてゼロから作っていく、こんなやりがいのある仕事はないと思って、自分から手を挙げました。大空町のチャレンジ精神を感じたんですね。道立高校ではできないことができる、町立でできるのはありがたいことだと感じました。
大空高校の校長として、どんな想いがありますか?
大空高校は新しい学校ですから、既存の枠組みからはみ出して、どんどん挑戦していきたいと思っています。既存の枠組みを壊しながら、「アン・ラーン」(既に学んだ知識・思考・習慣や常識を手放すこと)する役だと思っています。
現に、定期テストも廃止しましたし、全学年でタブレット端末などICTの活用を進めています。もちろん、いわゆるブラック校則もありません。
ゼロイチフェーズの学校は、今後も、もう生まれないかもしれません。廃校は増える一方ですが、今から作る学校は全国でも珍しいと思います。新しい教育を作りたい先生は、大空高校で働いてほしいと思います。
大変注目されていますが、大空高校の魅力といえば?
大空高校を一言で表そうと思うと、難しいですね。どの高校も、主体性、探究力、そうは言うものの、授業では一斉講義になってしまったりする。大空高校では、そこを一気にジャンプして、目標にたどり着くことができると思っています。
新しい高校だということもあり、起業や創業フェーズにあるアントレプレナーシップ(起業家精神)の雰囲気は感じますよね。ワークショップや教え合いなどの新しい取り組みも率先して取り入れているのですが、導入が進んでおり、「授業の8〜9割が一斉講義ではない」と文科省の方に話したところ大変驚かれました。
生徒の目線からすると、変化を期待して入ってきている学生が多いように思います。オープンキャンパスや学校見学体験などを通じて応募してきた受験生たちは、志望の動機にそう書いていますね。高校時代は人生の滑走路だと、学校では言っています。やってみたいことを仲間と語らい、計画し、行動する。そしてまた立ち還って考える。それを繰り返す過程でその後の人生航路を切り拓いていく方法を学んでほしいです。
一緒に移住されたご家族の反応はいかがですか?
埼玉県で育った妻と二人暮らしですが、離島や山あいの町での生活を経験したこともあり、
大空町ってなんて都会なんだ、って二人で話しています。今は、徒歩圏にコンビニが2軒もありますが、離島では最寄りのコンビニまでは、船で4時間でしたからね。
もともと住んでいる人がいるんだから不便すぎるわけがない、と思っていました。最初は、冬を気にしていたんですが、家の中はとても暖かい。雪かきは大変ですが、一冬を越してからは、大丈夫だなと。
今まで住んでいた場所と比べて足りなくなるモノやコトを心配するよりも、一年も住めば気にならなくなるか、別の手段が見つかるものです。不安や心配事を上回る自然、地域のみなさんとの交流、やりがいのある仕事など、大空町では見つけられる実感があります。
大空町で暮らし始めて、ご自身に変化はありましたか?
旧車が趣味なんですが、ここに来てからは今まで以上にドライブに出かけたくなりますね。クルマの運転…というより操縦感がとにかく好きなんです。大空町には走りやすい道がいっぱいあります。例えば、上り坂を走っているとき、前方に空しか見えないと地球を感じるんですよね。少し足を伸ばせば美幌峠や屈斜路湖までアクセスがいいのも魅力です。クルマを走らせていると仕事の悩みも、消えていきます。
自分自身の変化としては、おおらかになった気がします。高知にいたときのほうが、仕事でイライラしていました。日照時間も短く、空も狭い場所だったこともあるかもしれません。大空町では、太陽をふんだんに浴びていますし、ストレス・レスになっている気がします。妻を見ていても、話している言葉が自然と柔らかくなったな、なんて思います。
移住を検討中の方へのコメントはありますか?
冬の寒さは気にしなくていい、これにつきます。マイナス15℃でも割と平気に外を歩けるんですよ!
ただ、雪かきと夏の草刈りをやる心の準備は必要ですね。
クルマ好きなら、好きな車を持ってくること。これを機に、たくさん乗って欲しい。四季を感じやすいのはいいですよね。北海道の紅葉は、どこよりもキレイですよ。
行政へ伝えたいことはありますか?
上意下達の時代は終わった、と思ってほしいです。新しい町長を支えていくために、自分から動いていく。どう動くきべきか、考えていくべき時なのではないでしょうか。
一つだけ、移住の際にストレスに感じたことがあります。地方では多いのですがそれは、ゆうちょ銀行からしか引き落としができなかったことです。時代に合わせて、他のオプションもあったほうが、より移住のプロセスがラクになるのではと思います。
北海道大空高等学校
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編集部あとがき
取材当日は、大空町のロゴカラーのブルーとグリーンのお着物コーディネートで現れた大辻さん。晴れた日は、出勤中にオープンカーからライブ配信、そして、学校にいるオンの時間は和装を徹底し、週末のオフの時間は、お気に入りの旧車でお仲間たちとツーリング。大空町の自由あふれる空気を存分に満喫し、北海道の大地が誰よりも似合っているのは、大辻さんご自身かもしれないと思いました!